交通事故

2025/05/04 交通事故

駐車場内でバックしてきた車に追突された事故で保険会社から5:5の提示。交渉で0:9となった事例

① 事例

駐車場内のバックしてきた車に追突された事故で保険会社から5:5の提示。交渉で0:9となった事例

② 事案の概要

営業のために立ち寄った現場付近に駐車場があると聞いていたご依頼者様は、目の前にあった駐車場で一旦停止してスマホで場所などを確認しようとしていました。

そうしたところ、駐車スペースに止めていた自動車をバックで出てきた相手方の車両がそのまま進行してきてご依頼者様が運転していた自動車にぶつかりました。ご依頼者様は、車の音がしてスマホから顔を上げると目の前に車があり、その直後にはガシャンというぶつかった音がしたため、事故が発生しました。

しかし、相手方保険会社は「駐車場内の事故であり、双方に動いている可能性がある」「ご依頼者様にも前方不注意があった」などとして、過失割合を「ご依頼者様:相手方=50:50」と提示してきました。

そもそもご依頼者様は停止していたのであるからこの提示に全く納得できないと考え、自身の過失はゼロであるべきだと思い、当事務所に相談に来られました。

ちなみに、相手方もバックでゆっくりと進んでいたため、ご依頼者様には怪我はなく、物損のみという状況でした。

ご依頼者様は110番通報して駆け付けた警察官によって現場の状況確認が行われ、物件事故として処理されました。

・相手方保険会社の主張とご依頼者様の不満
後日、ご依頼者様は自身の加入する任意保険会社を通じて相手方の保険会社と連絡を取りました。すると、相手方保険会社の担当者は、早々に過失割合について「ご依頼者様:相手方=50:50」という見解を示してきました。
その根拠として、担当者は以下のような点を挙げました。
・駐車場内の事故であること: 駐車場内は道路交通法がそのまま適用されるわけではなく、お互いに注意しながら進行すべき場所であり、通路を走行する車と駐車スペースから出てくる車の双方に注意義務がある。
・動いている車同士(の可能性): ご依頼者様もエンジンはついており完全に停止していたという確証がない。仮に停止していたとしても、直前まで動いていたため、「動いている車同士の事故」として類型的に判断されるべき。
・ご依頼者様の前方不注意: ご依頼者様は相手方の車がバックしてくる可能性を予見し、もっと早く回避行動をとるべきだった。すぐにクラクションを鳴らすなど回避する方法はあった。

ご依頼者様はこの説明に全く納得できませんでした。
ご依頼者様自身の保険会社担当者にも相談しましたが、「駐車場内の事故では、なかなかゼロ主張は難しいかもしれません」「相手方保険会社も強気なので、交渉は難航する可能性があります」といった消極的な反応でした。

③ 弁護士の対応

弁護士は、ご依頼者様から事故状況、相手方保険会社とのやり取りについて詳細なヒアリングを行いました。ご依頼者様が強く主張される「衝突前に停止していた」という点が、過失割合を決定する上で極めて重要なポイントであると判断しました。
しかし、今回はドライブレコーダーについてご依頼者様の自動車にはついていませんでした。

しかし、相手方の自動車についていたことからそれを入手しましたが、自動車後方にはついておらず、前方を写したドライブレコーダーでした。

弁護士はその他、以下の資料を収集・検討しました。

・事故状況報告書(警察作成)

・現場写真(ご依頼者様撮影)

・ ご依頼者様車両の修理見積書

・相手方車両の修理見積書(相手方保険会社経由で入手)

駐車場内の事故における過失割合は、道路上の事故のように道路交通法による明確な優先関係がない場合が多く、個別の事故状況に応じて判断されます。

しかし、実務上は、判例タイムズ社発行の「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(通称「判例タイムズ38号」)に掲載されている事故類型ごとの基本過失割合や修正要素が重要な参考基準となります。

本件に類似する類型として、「駐車場内の通路進行車と駐車区画から発進する車両の事故」が考えられます。判例タイムズ38号【260】図では、通路進行車をA、駐車区画から発進する車をBとした場合、基本過失割合を「A:30、B:70」としています。これは、通路進行車にも駐車区画から出てくる車両を予見し注意する義務がある一方で、駐車区画から発進する車両は通路の安全を確認する義務がより大きいと考えられるためです。
しかし、これはあくまで「双方動いている」ことを前提とした基本割合です。

本件のように、通路進行車(ご依頼者様)が危険を察知して衝突前に停止していた場合は、状況が大きく異なります。

停止している車両に動いている車両が一方的に衝突した場合、原則として衝突した側の過失が100%となるのが基本です。
弁護士は、以下の点を根拠に、本件におけるご依頼者様様の過失はゼロ(ご依頼者様:0、相手方:100)であるべきだと判断し、交渉方針を固めました。

・停止車両への追突: ドライブレコーダー映像では、ご依頼者様の自動車が停止していたか否かを判別することができませんでした。しかし、映像に写っている状況と音声からすると、相手方の車両が動き始めて少しするとガシャンとぶつかった音がしますから、間違いなく相手方が動いた結果発生した事故である、ということまでは立証できそうでした。

そこで、以下の主張をすることとしました。
・相手方の安全確認義務違反: 相手方は駐車区画から通路に出る際、通路を走行する他の車両の有無や動静を十分に確認する義務があったにもかかわらず、これを怠り、停止していご依頼者様の車両に衝突したと主張をしました。

・回避行動は不要: ご依頼者様はすでに停止しており、直ちに自動車を動かして回避することはできない。そうすると過失と評価されるべき前方不注意等は認められない。

・判例タイムズ基準の修正: たとえ基本過失割合(30:70)をベースに考えたとしても、「ご依頼者様の停止」に気づかなかった相手方には著しい過失・重過失に類する修正要素として考慮されるべきであり、ご依頼者様の過失をゼロとする修正が妥当である。

これを基準に相手方保険会社との交渉を行いましたが、5:5からなかなか動きませんでした。

そのため、ご依頼者様とは訴訟提起を行うしかないと考えてお打ち合わせをしていたところ、相手方保険会社から2:8(ご依頼者様2:相手方8)の提案がありました。

相手方保険会社の理屈としては、少なくともご依頼者様は停止していたとしても、通路で停止しているという状況ではありましたので、そのような状況で停止していたことそのものに多少の過失があるのではないかとの反論でした。

種々考慮しましたが、停止そのものについてはそこまで問題視されるべき問題ではないと思いますが、確かにご依頼者様が停止中にスマホを操作していなければ正面からバックしてきた自動車に対してクラクションによって注意を促すことはできたはずです。

訴訟になった場合、裁判所がそのことを指摘してくる可能性はありましたので、ご依頼者様に今後の流れやリスクを説明した上で、どのように進めるかお伺いしました。

そうしたところ、ご依頼者様も訴訟にはあくまでも積極的ではなかったところ、こちらの過失がないということであれば相手方の過失割合について譲歩の上、示談を受け入れてもよいとのことでした。

そのため、種々考慮して0:9(ご依頼者様0:相手方9)の過失割合であれば訴訟提起を行わず、交渉で終わら去ることが可能なので、検討してもらいたいことを相手方保険会社に伝えました。

そうしたところ、最終的に相手方保険会社もこの提案を受け入れたため、示談書を作成して無事に示談締結となりました。

④ 弁護士のコメント

本件は、駐車場内におけるバック車両との接触事故という、過失割合で争いになりやすい典型的なケースでした。

相手方保険会社が当初提示した「50:50」という割合は、必ずしも事故状況を正確に反映したものではなく、「駐車場内だから」「動いていた(可能性がある)から」といった、保険会社側の類型的な判断や交渉戦術に基づいたものであった可能もあります。

このような状況で、ご依頼者様の過失はないということができた要因は、後ろ側が写っていなかったとはいえ、客観的証拠であるドライブレコーダー映像の存在が大きかったと思っています。

この映像によって、相手方が後ろ側に存在しているはずの自動車を明確に見ていないでそのまま後ろに車両を進行させたということを推認することができました。

そのため、ご依頼者様の仰っていることを否定する反証のための証拠がないことがわかったのです。

もしドライブレコーダーがなければ、「停止していた」「いや動いていた」という水掛け論になり、相手方保険会社の主張を覆すことはかなり困難だったでしょう。

その場合、ご依頼者様は極めて不本意ながらも50:50に近い過失割合を受け入れざるを得なかったかもしれません。

また、ドライブレコーダー映像という客観的な証拠に基づき、判例タイムズの基準や類似裁判例といった法的根拠を示しながら、粘り強く交渉を行ったことも、相手方保険会社に譲歩を引き出させた要因です。

弁護士が介入することで、相手方保険会社も安易な主張を続けることが難しくなり、より慎重な検討を促すことができます。


駐車場内の事故は、道路交通法の適用が限定的であることや、明確な優先関係が定められていない場合が多いことから、過失割合の判断が難しく、争いになりやすい傾向があります。

保険会社は、過去の事例や社内基準に基づき、類型的に過失割合を提示してくることがありますが、それが必ずしも個別の事故状況に即した妥当なものとは限りません。

特に、「駐車場内だからお互い様」「動いていた車同士だから5:5」といった安易な説明で不利な過失割合を提示された場合は、すぐに同意せず、疑問を持つことが重要です。

本件のように、ご自身では停止していたつもりでも、相手方や保険会社から「動いていた」と主張されるケースは少なくありません。そのような場合に備え、ドライブレコーダーを設置しておくことは、万が一の事故の際に自身の正当性を主張するための非常に有効な手段となります。

もし事故に遭われ、保険会社の提示する過失割合に納得がいかない場合は、示談に応じてしまう前に、ぜひ一度、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。ドライブレコーダー映像などの証拠の分析、法的根拠に基づいた適切な過失割合の評価、そして保険会社との対等な交渉を通じて、より有利な解決を得られる可能性があります。

また、ご自身の自動車保険に弁護士費用特約が付帯されていれば、多くの場合、弁護士費用を保険で賄うことができます(通常、上限300万円まで)。

この特約を利用すれば、費用負担を気にすることなく弁護士に依頼することが可能ですので、ご自身の保険内容を確認してみることをお勧めします。

本件もまさしく修理費用が大きくないいわゆる軽微な物損事故であり、弁護士費用特約がなければ間違いなく費用対効果の問題でご依頼をいただくことは難しかったでしょう。

そうなればご依頼者様も泣く泣く相手方保険会社の言う通りの内容で示談していたかもしれません。

駐車場内の事故は誰にでも起こりうる身近なトラブルです。

万が一、同様の状況でお困りの方がいらっしゃいましたら、泣き寝入りすることなく、まずは交通事故の専門家である弁護士にご相談いただければと思います。

他の事務所さんでは軽微な物損のみの事故は受けていないと言われてしまい、池長・田部法律事務所にご相談された方もいらっしゃいます。

当事務所では、弁護士費用特約さえついているならばご依頼者様の負担なくご依頼できるため、軽微物損であったとしても問題なくご相談・ご依頼をいただいております。

金額が小さい事故だから依頼を受けてもらえないかも…と心配する必要はありません。

例えば、ご依頼者様の修理費用見積もり約5万円対相手方の修理費用見積もり約7万円という事故もご依頼をいただいた経験もございます。

当事務所では埼玉県内の事故だけではなく、東京、千葉、神奈川、群馬、栃木、茨城の交通事故もお取り扱いがございますし、広島や沖縄など、埼玉県から非常に離れた場所で起きた物損事故の取り扱いもさせていただいたこともあります。

交通事故のご相談をしたいという方は、ぜひ池長・田部法律事務所にご相談ください。

 

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