コラム

2025/05/10 コラム

交通事故の加害者になってしまったあなたへ:知っておきたい「刑事弁護士費用特約」のこと

はじめに

交通事故の加害者となってしまった時、その衝撃や混乱は計り知れません。「被害者の方は大丈夫だろうか」「これからどうなってしまうのだろう」といった不安で頭がいっぱいになることでしょう。

特に、相手の方に怪我をさせてしまった人身事故の場合、民事上の損害賠償責任だけでなく、刑事事件として警察の捜査を受け、場合によっては逮捕・勾留されたり、起訴されて刑事裁判になったりする可能性があります。

このような状況では、ご自身の権利を守り、不当に重い刑事処分を避けるために、早期の段階から弁護士に相談し、適切なサポートを受けることが極めて重要になります。しかし、「弁護士に依頼すると費用が高額になるのでは…」という心配から、相談をためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。

その不安を軽減してくれるかもしれないのが、自動車保険の「刑事弁護士費用特約」です。このコラムでは、万が一の際にあなたの大きな助けとなる可能性があるこの特約について、詳しく解説します。

刑事弁護士費用特約とは?

「刑事弁護士費用特約」とは、自動車保険に付帯できる特約の一つです(保険会社によって「加害者事故弁護士費用特約」など名称が異なる場合があります)。

その目的は、自動車事故の加害者となってしまい、刑事責任を問われる可能性がある場合に、必要となる弁護士費用(相談料、接見費用、着手金、報酬金など)を、保険会社が一定の範囲内で補償してくれるというものです。

なぜこの特約が必要なのでしょうか?

交通事故の加害者は、被害者への損害賠償(民事責任)とは別に、刑事責任を問われる可能性があります。逮捕・勾留されたり、起訴されて裁判になったりした場合、法律の専門家である弁護士によるサポートが不可欠です。

  • 逮捕・勾留された場合: 早期に弁護士が接見(面会)し、取調べへの適切なアドバイスを行うことで、不利な供述調書の作成を防いだり、早期の身柄解放を目指したりできます。
  • 在宅捜査・起訴後: 被害者との示談交渉を進めたり、有利な証拠を収集したりするなど、不起訴処分や執行猶予付き判決、刑の軽減に向けた弁護活動を行います。

このように、刑事手続きの早い段階から弁護士が関与することが、最終的な結果に大きく影響します。刑事弁護士費用特約は、そのための費用面のハードルを下げてくれるのです。

※特に利用しても保険料に影響がないとされています。ご利用の際にご不安なら保険会社にご相談ください。

補償される費用の範囲(一般的な例)

この特約で補償される弁護士費用は、一般的に以下のようなものが挙げられます。

  • 被疑者段階(捜査段階):
    • 弁護士への法律相談料
    • 逮捕・勾留された場合の弁護士による接見(面会)費用
    • 不起訴処分や早期釈放を目指す弁護活動の費用(着手金など)
  • 被告人段階(起訴後・裁判段階):
    • 刑事裁判における弁護活動の費用(着手金、報酬金)
    • 保釈請求に関する費用

ただし、補償には上限額が定められているのが一般的です(例:総額150万円までなど)。また、弁護士が活動するために必要な実費(交通費、通信費、記録謄写費用など)の一部や、特定の活動に関する費用は補償対象外となる場合もありますので、契約内容の確認が必要です。

上限額を超えるとしても、上限額までは補償の対象になるため、自己負担は相当に減ることになります。

【重要!】利用できる条件と注意点

この特約は非常に有用ですが、利用にあたっては以下の点に注意が必要です。

  • 対象事故: 通常、契約車両の運転中の「自動車事故」が対象です。すべての事故で使えるわけではありません。
  • 対象者: 誰が運転していた事故まで補償されるか(記名被保険者本人、その家族、友人など)は、保険契約によって異なります。
  • 故意・重過失による事故は対象外!: これが最も重要な注意点です。飲酒運転(酒酔い・酒気帯び)、無免許運転、麻薬・覚せい剤などを使用した運転、故意(わざと)に起こした事故など、法令に違反する行為や極めて悪質な運転が原因の事故の場合は、この特約を利用することはできないことがほとんどです。
  • 保険会社への事前連絡・承認: 特約を利用したい場合は、必ず事前に保険会社へ連絡し、その承認を得る必要があります。保険会社に連絡せずに弁護士に依頼した場合、後から費用が支払われない可能性があります。
  • 弁護士の選定: 保険会社によっては提携弁護士を紹介されることもありますが、多くの場合、ご自身で弁護士を選ぶことが可能です。自分に合う弁護士で、刑事弁護に長けている弁護士に依頼するのが重要です。ただし、選任手続きについては保険会社に確認しましょう。
  • 費用の自己負担: 補償の上限額を超えた部分や、補償対象外の費用については、自己負担となります。

刑事弁護士費用特約のメリット

この特約に加入していることのメリットは計り知れません。

  1. 費用の心配なく、早期に弁護士に相談・依頼できる: 経済的な不安が軽減されるため、逮捕直後など、最も重要なタイミングで弁護士のサポートを受ける決断がしやすくなります。
  2. 適切な弁護活動による、より良い結果への期待: 早期からの的確な弁護活動は、不起訴処分の獲得、刑の軽減、早期の身柄解放、被害者との円満な示談成立などに繋がる可能性を高めます。
  3. 精神的な安心感: 刑事手続きという過酷な状況下で、「費用の心配が少ない」「専門家が味方についている」という事実は、大きな精神的支えとなります。

ご自身の保険を確認しましょう!利用の流れは?

まずは、ご自身が加入している自動車保険の保険証券や契約内容の控えを確認し、「刑事弁護士費用特約」(または類似の名称の特約)が付帯されているかを確認しましょう。分からなければ、保険会社や保険代理店に直接問い合わせるのが確実です。

利用する際の一般的な流れ(概略):

  1. 交通事故(特に人身事故)を起こしてしまったら、保険会社に事故報告を行う際に、刑事弁護士費用特約を利用したい旨を伝えます。
  2. 保険会社から、特約の利用条件や補償範囲、手続きについて説明を受けます。
  3. 弁護士を探し、相談します。依頼を決めたら、保険会社の承認を得て(または所定の手続きを経て)正式に依頼します。
  4. 弁護士が刑事弁護活動を開始します。弁護士費用は、保険会社から弁護士へ直接支払われるか、一旦立て替えて後で保険会社に請求する形になります(手続きは保険会社・弁護士にご確認ください)。

現在、刑事弁護士費用特約を付帯することのできる保険はそう多くはありません。2025年5月6日時点ですが、損害保険ジャパン株式会社(損保ジャパン)、東京海上日動火災保険株式会社の2社が代表的な保険会社です。

まとめ

交通事故の加害者になってしまった場合、特に人身事故では、刑事責任を問われるという厳しい現実に直面する可能性があります。そのような万が一の事態に備え、ご自身の自動車保険に「刑事弁護士費用特約」が付いているかを確認しておくことは、非常に重要です。

この特約は、費用の心配をすることなく、必要な時にためらわずに弁護士のサポートを受けるための、いわば「お守り」のような存在です。早期に適切な弁護を受けることができれば、それは結果的に、被害者の方への誠実な対応にも繋がり、あなた自身の未来を守ることにも繋がるかもしれません。

ただし、飲酒運転や無免許運転など、悪質な法令違反による事故では利用できないことを肝に銘じてください。

もちろん何よりも大切なのは、日頃から交通ルールを守り、安全運転を心がけ、事故を起こさないことです。ただ、いつなんどき、交通事故の加害者になってしまっても全くおかしくはありません。

むしろ、ご自身が加害者になることもあるかもしれないという意識でいることもまた重要なことです。

その上で、万が一への備えとして、ご自身の保険内容を見直してみてはいかがでしょうか。

交通事故で加害者になってしまった場合、刑事事件でない場合であってもご自身やご家族にとって心理的には非常に不安であったりストレスが大きいものです。

そうした際にはまず弁護士に相談してみましょう。

池長・田部法律事務所では、加害者側の事故の相談もご対応しております。

ご自身やご家族だけで抱え込まずに、まずはご相談をご検討ください。

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