2022/09/01 刑事事件
過失運転致死事件で、3年以上の実刑が想定されていたものの、最終的な判決が懲役1年となった事例
①事例
過失運転致死事件において、3年以上の実刑が想定されていたところ、最終的な判決が懲役1年となった事例
②事案の概要
ご依頼者様は、前日飲み会に参加した後、自分の車で寝て、朝方家に帰ることにしました。
車内が暑くて起きてしまったため、予定より少し早かったのですが家に帰ることにしました。
その際、なんとなく酒が残っているような気がしたのですが、そのまま車を運転して帰宅してしまいました。
その後、自動車を運転中不意に眠くなってしまい、一瞬寝てしまいました。
その際に被害者の方と接触したようで、パンという音がしたため、起きてブレーキを踏みました。
しかし、被害者の方が見当たらなかったため、電柱に擦ってぶつけてしまったのだろうと思い、そのまま帰ってしまいました。
その後、家に帰り、次の日が休みだったのでそのまま寝てしまいました。
昼頃に起きて、不安になり自動車を見てみたところ、大きな破損はなかったもののやはり傷になっており、何かしらにぶつけてしまったのだろうと思いました。
その日の昼頃に自分が通りかかった頃の時間帯に人が轢かれて亡くなったと報道で知り、もしかしたら自分が轢いてしまったかもしれないと恐怖を抱きました。
その翌日、警察が自宅に来て逮捕されました。
③弁護士の対応
ご依頼者様の職業は少し特殊であり、死亡事故で報道されてしまっていた案件だったため、非常に慎重に行動する必要があると考えられました。
また、公判請求されることは確実だと思われましたので、飲酒についての立証を検察官がして、裁判所が飲酒の事実を認定すれば、3年以上の実刑になることが予想されました。
一方で日数が経ってしまったことから呼気検査などを行っても意味がなく、アルコールの検知は不可能でした。
そのため、捜査機関が行うとすれば、周囲の人間から大まかにこの程度飲酒していたという供述と、それにあった飲酒量及び血中アルコール濃度の推計を行うものを出してくるだろうと予想しました。
自白があると間違いなく認定されてしまうというところでしたが、公判段階でどのような弁護方針で行くかということが固まっていない以上、徹底的な黙秘を行い、黙秘を継続することで、自白なしの状況で、検察官が収集した客観的な証拠のみを持って公判に臨んでもらうことにしました。
死亡事故であり、当て逃げ、かつ職業も少し特殊だったため、センセーショナルな事件でしたので、公判では被害者参加も予想される状況でした。
そのため、検察官からの追及のみならず被害者遺族からの追及も極めて苛烈なものとなるだろうと予想されました。
本当に最後まで悩んだのは、公判で黙秘を続行し、今ある証拠のみによって裁判を行ってもらい判決を出してもらうか、それとも遺族の前で正直にお話しして、真実を明らかにするか、ということです。
弁護人としては、依頼者の利益が絶対であり、ここでいう利益とは基本的に量刑をいかに減らして、社会復帰の早期サポートに尽くすことです。
一方、公判で黙秘を行った場合には、社会的非難は極めて苛烈なものになることが予想されました。
そのため、弁護人間でも被告人質問について、情状弁護を行い、少しでも量刑を軽くする方が適切か、それとも飲酒の事実の立証ができない可能性にかけて、黙秘を続行するか、という点は意見が割れました。
最終的には、ご本人とも何度も協議して話し合った結果、公判では黙秘をすることになりました。
当然ですが、被害者遺族は非常に激怒してしまい、公判廷も非常にピリついた危うい空気が立ち込めていました。
結局検察官は飲酒について追加立証をしなかったため、検察官の論告・求刑の後、被害者遺族の意見陳述と被害者代理人の意見陳述で終わり、被告人の最終陳述となりました。
裁判は結審しました。
その後の判決では飲酒運転という認定はなされず、前方不注意のみの過失となった結果、過失運転致死と報告義務違反(事故後に警察を呼ばなかった)のみで、飲酒運転は認定されず、1年の実刑判決となりました。
④弁護士からのコメント
本件については、社会や被害者遺族から見れば全く受け入れ難い結論になったと思います。
しかし、弁護士はときに社会の批判の的になり、針のむしろとなる依頼者の唯一の盾となり弁護活動を行います。
そのような行動はときに悪徳弁護士と呼ばれたり、真実を隠蔽し、捻じ曲げるひどい弁護士と揶揄されることもあります。
もっとも、犯罪を犯した人間であっても刑事手続として人権が保障されているというのが近代の司法であり、いくら凶悪な犯罪をしたとしても、死刑でなければいつかは社会に復帰することになります。
また犯罪を起こすような人間が社会に帰ってくる世の中になってしまったら、より社会は悪い方向に向かうでしょう。
そのため、我々は、被疑者・被告人の盾となり弁護し、その人の今後も含めた社会的なサポートを全力で行うことで被告人の裁判が終わった後の真の更正につながっていくものと信じ、弁護活動をしています。
本件ご依頼者様は社会に復帰されましたが、これからもずっとこのことを後悔し続け、一生悔やみ続ける。この想いを胸に生きていきます、いつか被害者遺族には真実をお伝えしていく機会を作りますとおっしゃっていました。
このように、加害者側弁護はときに社会の意見とは真っ向から対立し、真逆のことを行うこともあります。
もっともこれは広い視野で見れば同じようなことが起こったときに、その人の属性、人格、好き嫌いなどで量刑が変動しないか?適正な裁判が行われているか?魔女狩りが行われないか?という観点から弁護を行っています。
加害者側の弁護を行う場合には、このようなときに社会から悪とされつつも、被疑者・被告人の早期社会復帰と更生に加え、将来の司法の信頼を守るということに繋がる活動を行っていると考え、活動をしています。
もしも、凶悪犯罪と呼ばれる事件であっても、我々は強い信念をもって弁護します。
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