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2025/05/08 コラム

「ちょっとした事故」と侮れない?少額物損事故の争点と注意点

はじめに

「コツンと当たっただけ」「バンパーに少し傷がついただけ」――いわゆる「少額物損事故」と呼ばれる、車両の修理費などの物的損害額が比較的小さい交通事故。幸いお怪我はなかったとしても、当事者にとっては決して「小さな問題」ではありません。

「これくらいの事故で、どこまで請求できるのだろう?」「相手の言い分に納得できないけれど、費用をかけて争うべきか…」といった悩みを抱える方は少なくありません。むしろ、損害額が小さいがゆえに、費用対効果の問題や感情的な対立が生じやすい側面もあります。

このコラムでは、そんな少額物損事故において、よく問題となる「争点」と、解決に向けて押さえておくべき「注意点」を解説します。

少額物損事故でよくある争点

損害額が小さいとはいえ、事故である以上、賠償責任の所在や損害の範囲を明確にする必要があります。少額物損事故では、特に以下のような点が争点となりやすいです。

  1. 過失割合:

    • 事故の発生について、どちらにどれくらいの責任があるかを示す割合です。駐車場内の接触事故や、狭い道でのすれ違いざまの接触など、軽微な事故ほど「どちらも動いていた」「相手が急に出てきた」など、双方の言い分が食い違い、過失割合で揉めるケースが多く見られます。
    • ドライブレコーダーの映像は、客観的な証拠として極めて重要になります。映像がない場合は、事故直後の写真や、当事者双方の説明、目撃者の証言などが判断材料となりますが、水掛け論になりやすい傾向があります。
  2. 修理費の相当性:

    • 事故によって損傷した箇所を修理するために、必要かつ相当な範囲の修理費用が認められます。
    • 経済的全損: 特に古い車の場合、修理費用がその車の時価額(事故当時の車両価格)を上回ってしまうことがあります。これを「経済的全損」といい、原則として賠償額は修理費ではなく、時価額が上限となります。この「時価額」の評価(中古車市場の価格などを参考にします)自体が争点になることもあります。
    • 修理方法: ディーラーでの修理を希望しても、相手方保険会社から「もっと安い修理工場で修理すべき」と主張され、修理費の一部しか認められない、といったケースもあります。
  3. 代車費用の相当性:

    • 修理期間中に車が使えず、代車を利用した場合の費用です。
    • 必要性: 通勤や業務での使用、日常生活に不可欠であるなど、代車を使用する必要性が認められる必要があります。単に「あった方が便利」というだけでは、認められない場合があります。
    • 期間: 修理に通常必要とされる相当な期間に限られます。部品の取り寄せに時間がかかるなど、特別な事情がない限り、長期間の代車利用は認められにくい傾向があります。
    • 車種・単価: 事故車と同等クラスの代車費用が原則ですが、高級外車など、代車費用が高額になる場合は、その相当性が争われることがあります。
  4. 評価損(格落ち損害):

    • 車両を修理しても、事故歴(修復歴)がついたことによって、将来の売却時などに車両の価値が下がってしまう損害のことです。
    • 少額物損の場合、特にバンパーの擦り傷など、外板部の軽微な損傷のみでは、評価損が認められるケースは限定的です。一般的には、骨格部分(フレームなど)の損傷・修復がある場合や、比較的新しい人気車種などで認められやすい傾向にありますが、明確な基準はなく、争いになりやすい損害項目です。
  5. その他の損害:

    • 積荷損害: 事故によって車両に積んでいた物が壊れた場合の損害。
    • 休車損害: タクシーやトラックなどの営業用車両が、修理期間中に営業できなかったことによる損害。

少額物損事故における注意点

少額物損事故の解決を目指す上で、特に注意したい点は以下の通りです。

  1. 費用対効果の問題(費用倒れリスク):

    • 請求したい損害額に対して、弁護士に依頼する費用や、訴訟になった場合の費用・手間が見合わない、いわゆる「費用倒れ」のリスクがあります。相手方との交渉が難航し、どうしても納得できない場合は、まずご自身の自動車保険に「弁護士費用特約」が付いているか確認しましょう。この特約があれば、多くの場合、自己負担なく弁護士に相談・依頼することが可能です。
  2. 感情的な対立の激化:

    • 金額の大小に関わらず、事故の相手方の不誠実な対応や、保険会社の高圧的な態度などによって、感情的なしこりが残り、対立が激化してしまうことがあります。冷静さを保ち、客観的な証拠に基づいて話し合いを進めることが重要ですが、当事者同士では難しい場合もあります。
  3. 早期解決のメリット:

    • 争いが長引くと、精神的な負担が増え、時間も浪費してしまいます。ある程度のところで譲歩し、早期解決を図ることも、時には賢明な判断となります。
    • 裁判手続き以外にも、日弁連交通事故相談センターそんぽADRセンターなどの裁判外紛争解決手続(ADR)を利用して、中立的な第三者のあっせん・調停により解決を図る方法もあります。
  4. 証拠の確保:

    • どんなに小さな事故でも、客観的な証拠を確保することが、後の交渉を有利に進める上で非常に重要です。
      • ドライブレコーダー映像(最重要)
      • 事故直後の現場写真(車両の損傷箇所、位置関係、道路状況など、多角的に撮影)
      • 修理見積書修理費の領収書
      • 代車利用の明細書領収書
      • 事故状況に関するメモ(日時、場所、相手の情報、簡単な図など)

弁護士への相談も選択肢に

「少額物損だから弁護士に相談するのは大げさでは…」と思われるかもしれません。しかし、以下のような場合には、弁護士への相談を検討する価値があります。

  • 過失割合で大きな争いになっている。
  • 修理費や代車費用など、損害額の算定について相手方保険会社の主張に納得できない
  • 相手方保険会社の担当者の対応に不満がある。
  • 弁護士費用特約が利用できる。

弁護士に相談することで、法的な観点から妥当な解決策や交渉方針についてアドバイスを受けられます。また、弁護士が代理人として交渉することで、相手方保険会社の態度が軟化したり、より有利な条件での解決につながったりする可能性もあります。正式に依頼する前の法律相談だけでも、解決の糸口が見つかることは少なくありません。

まとめ

少額物損事故は、「軽微な事故」と片付けられがちですが、過失割合や損害の範囲を巡って、複雑な争点を含むことが少なくありません。また、費用対効果の問題や感情的な対立といった、少額であるがゆえの難しさも存在します。

事故に遭われた際は、まずは冷静に状況を把握し、しっかりと証拠を確保することが大切です。そして、相手方との交渉で納得がいかない点や、ご自身での対応に不安を感じる場合は、安易に諦めたり、感情的になったりする前に、一度、弁護士費用特約の有無を確認の上、交通事故に詳しい弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

池長・田部法律事務所では少額物損事故についても、費用倒れの心配のない弁護士費用特約があるケースではご相談・ご依頼をいただき、ご対応をしております。

物損事故でお悩みの方はぜひ当事務所までご相談ください。

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