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2025/05/13 コラム

「一杯だけ」が人生を壊す。飲酒運転の恐るべき代償:刑事罰・行政処分・民事責任の徹底解説

はじめに

「少し飲んだけど、家まで近いから大丈夫だろう」「ビール一杯くらいなら運転できる」…そんな甘い考えが、取り返しのつかない悲劇を生むことがあります。飲酒運転は、正常な判断力、注意力、運動能力を著しく低下させ、重大な交通事故を引き起こす極めて危険な犯罪行為です。

近年、飲酒運転に対する社会の目はますます厳しくなり、罰則も強化されています。しかし、残念ながら飲酒運転による悲惨な事故は後を絶ちません。

このコラムでは、飲酒運転がいかに許されない行為であり、運転者本人だけでなく、その家族や被害者の人生をも破綻させかねない深刻な結果を招くのか、その法的責任(刑事罰、行政処分、民事賠償責任)を詳しく解説します。「知らなかった」では済まされない、飲酒運転の恐るべき代償について、改めて認識してください。

飲酒運転の種類:「酒酔い」と「酒気帯び」

飲酒運転は、主に以下の2種類に分類され、どちらも処罰の対象となります。

  1. 酒酔い運転:
    • 体内のアルコール保有量(呼気中濃度など)に関わらず、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で運転すること。
    • 具体的には、まっすぐ歩けない、ろれつが回らない、受け答えがおかしいなどの状態から総合的に判断されます。
  2. 酒気帯び運転:
    • 身体に一定基準以上のアルコールを保有した状態で運転すること。
    • 具体的には、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上(または血液1ミリリットル中0.3mg以上)の状態で運転した場合に該当します。

「酒酔い運転」の方がより悪質とみなされ、刑事罰・行政処分ともに重くなります。

飲酒運転に対する刑事罰【事故を起こさなくても処罰】

飲酒運転は、たとえ事故を起こさなかったとしても、運転しただけで犯罪となり、厳しい刑事罰が科せられます(道路交通法違反)。

  • 酒酔い運転: 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
  • 酒気帯び運転: 3年以下の懲役または50万円以下の罰金

さらに、飲酒運転は運転者本人だけの問題ではありません。周囲の関係者も同罪として厳しく罰せられます。

  • 車両を提供した人:
    • 運転者が酒酔い運転の場合 → 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
    • 運転者が酒気帯び運転の場合 → 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • お酒を提供した人・車両に同乗した人:
    • (運転者が運転することを知っていた場合)
    • 運転者が酒酔い運転の場合 → 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
    • 運転者が酒気帯び運転の場合 → 2年以下の懲役または30万円以下の罰金

「知らなかった」「止められなかった」では済まされません。飲酒運転を容認・助長する行為も犯罪となるのです。

飲酒運転で人身事故を起こした場合の刑事罰【さらに重罪に】

万が一、飲酒運転で人を死傷させる事故を起こしてしまった場合、その刑事責任は道路交通法違反よりも格段に重い「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」によって裁かれます。

  • 危険運転致死傷罪(アルコール・薬物の影響):
    • アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で車を運転し、人を死傷させた場合に適用されます。
    • 人を負傷させた場合(致傷): 15年以下の懲役
    • 人を死亡させた場合(致死): 1年以上の有期懲役(最高20年)
      • ※他の罪と併合されるなど、場合によっては最高30年の懲役となる可能性もあります。
  • 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪:
    • 飲酒運転事故後、飲酒の事実を隠すために現場から逃走したり、さらに飲酒したりする悪質な行為に対する罪です。12年以下の懲役が科せられます。

通常の過失による人身事故(過失運転致死傷罪:7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金)と比較しても、飲酒運転が絡むだけで刑罰がいかに重くなるかがお分かりいただけるでしょう。

特に飲酒運転で人を死亡させた場合には、実刑を覚悟する必要性が極めて高いですし、「被害者参加制度」において遺族からの厳しい言葉が述べられる可能性もあります。

飲酒運転に対する行政処分【免許は必ず失う】

飲酒運転は、刑事罰だけでなく、運転免許に関する厳しい行政処分も科せられます。

  • 酒酔い運転:
    • 違反点数: 35点
    • 処分: 免許取消し(欠格期間3年)
      • ※欠格期間とは、免許を再取得できない期間のことです。
      • ※過去の違反歴等がない場合。前歴や累積点数によっては、欠格期間は最長10年になります。
  • 酒気帯び運転:
    • 呼気中アルコール濃度 0.25mg/L以上:
      • 違反点数: 25点
      • 処分: 免許取消し(欠格期間2年) ※同上、最長10年
    • 呼気中アルコール濃度 0.15mg/L以上 0.25mg/L未満:
      • 違反点数: 13点
      • 処分: 免許停止(90日間) ※同上

人身事故(死亡・傷害)を起こした場合は、さらに事故の点数が加算され、ほぼ確実に免許取消しとなり、欠格期間もより長くなります(最長10年)。

つまり、飲酒運転をすれば、一度の違反で運転免許を失い、長期間にわたって運転ができなくなるという、極めて重いペナルティが待っているのです。

飲酒運転事故における民事賠償責任【人生破綻のリスク】

飲酒運転で事故を起こした場合、刑事罰や行政処分に加え、被害者に対する民事上の損害賠償責任を負います。この責任は、時に加害者の人生を破綻させかねないほど過酷なものとなります。

  • 高額な損害賠償義務:
    • 被害者の治療費、入院費、通院交通費、休業損害(働けなかった期間の収入補償)、後遺障害が残った場合の逸失利益(将来得られたはずの収入)や慰謝料、死亡した場合の葬儀費用、逸失利益、死亡慰謝料、車両の修理費など、多岐にわたる損害を賠償しなければなりません。
    • 特に死亡事故や重い後遺障害が残った場合、賠償額は数千万円から億単位に上ることも珍しくありません。
  • 慰謝料の増額:
    • 飲酒運転という悪質な運転態様は、民事裁判において慰謝料を増額させる要因となります。通常の交通事故よりも高額な慰謝料支払いを命じられる可能性が高いです。
  • 【最大のリスク】任意保険が使えない(免責される)可能性!:
    • これが飲酒運転事故における最も恐ろしい点の一つです。多くの自動車任意保険の契約(約款)では、運転者の飲酒運転(酒酔い・酒気帯び問わず)による損害は、保険金支払いの対象外とする「免責事由」と定められています(ただし、保険会社においては被害者救済の観点から被害者側への賠償については対応する場合が多いですが自分や同乗者には適用されなくなる可能性があります。)。
    • これは、本来であれば保険会社が支払うはずの対人賠償保険金(被害者の損害)や対物賠償保険金(被害車両の修理費など)が一切支払われないことを意味します。
    • つまり、数千万~数億円にもなりうる莫大な損害賠償金を、すべて加害者本人が自己資金で支払わなければならないのです。(※自賠責保険は被害者救済の観点から支払われますが、上限額があり、到底足りません。また任意保険についても被害者側には被害救済の観点から対応するという保険会社が多い状況にはあります。)
  • 自己破産しても終わらない可能性:
    • 到底支払いきれない賠償金を負い、自己破産を選択せざるを得なくなるケースも後を絶ちません。しかし、飲酒運転が悪質と判断された場合、損害賠償請求権が「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」とみなされ、自己破産しても支払い義務が免除されない(免責不許可)可能性もあります。
  • 自分の車の修理費も自己負担:
    • 飲酒運転の場合、通常、自分の車の損害を補償する車両保険も適用されません。

まとめ:「飲んだら乗るな」、そして「許さない」社会へ

飲酒運転は、厳しい刑事罰、免許取消しという行政処分、そして、任意保険が使えず人生を破綻させかねない莫大な民事賠償責任という、想像を絶するほどの重い代償を伴う、極めて愚かで危険な行為です。

「一杯だけ」「少しだけ」「短い距離だから」…どんな言い訳も通用しません。アルコールが体内にある状態でハンドルを握ることは、あなた自身の未来、そして他人の尊い命や人生を奪う可能性があることを、決して忘れないでください。

「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」――この当たり前のルールを、一人ひとりが徹底すること。そして、友人、同僚、家族など、周囲の人に対しても、飲酒運転を絶対に許さず、させないという強い意識を社会全体で共有することが、悲惨で取り返しのつかない事故を防ぐために不可欠です。

万が一、飲酒運転で事故を起こし、このような深刻な事態に直面してしまった場合は、速やかに弁護士に相談し、被害者への誠実な対応と、ご自身の法的責任に適切に向き合う必要があります。しかし、何よりも大切なのは、決して飲酒運転をしないことです。

飲酒運転をしてしまい、刑事事件になってしまった、交通事故を起こしてしまったという場合には、池長・田部法律事務所にご相談ください。

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