コラム

2025/05/10 コラム

もしあなたが死亡事故の加害者になったら… 本人と家族が取るべき行動と注意点

はじめに

交通事故の中でも、人の命を奪ってしまう「死亡事故」は、最も重大な結果を招くものです。被害者の方の尊い命が失われた事実は取り返しがつかず、ご遺族の悲しみは計り知れません。まずは、交通事故によりお亡くなりになられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様に深く哀悼の意を表します。

一方で、不注意や予期せぬ状況から、死亡事故の「加害者」となってしまった場合、その衝撃と混乱、そして将来への不安は筆舌に尽くしがたいものがあります。法的責任はもちろん、道義的、社会的な責任も問われ、本人だけでなくご家族の人生にも大きな影響が及びます。

このような極めて困難な状況において、加害者本人とそのご家族が、どのように行動し、何に注意すべきなのか。冷静さを失わず、誠実かつ適切に対応するために知っておくべきことを解説します。また、近年注目されている「刑事弁護士費用特約」についても触れ、万が一の際の備えについても考えていきます。

事故直後の加害者本人の対応【最優先事項】

事故直後はパニック状態に陥りがちですが、以下の行動を冷静かつ迅速に行うことが、法的義務であると同時に、結果的に自身の責任を不必要に重くしないためにも重要です。

  1. 負傷者の救護(道路交通法上の義務・最優先!):

    • まず、被害者の状態を確認し、可能な限りの救護措置を行います。呼びかけに応じるか、呼吸や脈はあるかなどを確認し、必要であれば止血などを行います。
    • 直ちに119番通報し、救急車を要請します。場所、状況、負傷者の状態を正確に伝えます。
    • これを怠ると「ひき逃げ(救護義務違反)」となり、極めて重い処罰の対象となります。
  2. 二次事故の防止:

    • ハザードランプを点灯させ、発炎筒や三角表示板を設置するなどし、後続車に事故の発生を知らせ、二次的な事故を防ぎます。
    • 可能であれば、安全な場所に車両を移動させます。
  3. 警察への通報(道路交通法上の義務):

    • 必ず110番通報し、事故の発生を報告します。日時、場所、死傷者の数や状況、損壊した物などを正直に伝えます。
    • 警察官が到着するまで現場に留まります。
  4. 現場での言動:

    • 警察官の指示に従い、事故状況の説明を求められた場合は、感情的にならず、覚えている範囲で正直に話します。
    • 動揺のあまり、安易に「全面的に私が悪いです」といった法的な責任を認める発言をしたり、不用意な約束をしたりすることは、後の交渉で不利になる可能性もあるため慎重になるべきですが、誠意ある反省の態度を示すことは重要です。
  5. 保険会社への連絡:

    • 自身が加入している自動車任意保険会社へ、速やかに事故の発生を報告します。今後の対応について指示を仰ぎます。この際、後述する「刑事弁護士費用特約」の有無も確認しておくとよいでしょう。

その後の加害者本人の立ち回り

事故直後の対応を終えた後も、加害者として誠実に対応していく必要があります。

  • 捜査への協力:

    • 警察や検察による実況見分(事故現場での状況確認)や、事情聴取・取調べには、誠実な態度で協力することが基本です。
    • ただし、自分に不利な供述を強要されない権利(黙秘権)など、憲法で保障された権利もあります。取調べの対応については、必ず弁護士に相談し、アドバイスを受けながら進めることが賢明です。逮捕・勾留される可能性もあります。
  • 弁護士への早期相談・依頼(極めて重要):

    • 死亡事故の場合、過失運転致死罪や、より刑の重い危険運転致死罪(飲酒、無免許、著しい速度超過など悪質な場合)などの刑事責任を問われ、逮捕・勾留を経て、起訴され、刑事裁判になる可能性が非常に高いです。

    • 一刻も早く、刑事事件、特に交通死亡事故に精通した弁護士に相談・依頼することが不可欠です。 弁護士は以下のようなサポートを行います。

      • 逮捕・勾留された場合の接見、取調べへのアドバイス
      • 早期の身柄解放(釈放・保釈)に向けた活動
      • 被害者遺族との示談交渉(刑事処分の重さに大きく影響します)
      • 刑事裁判における弁護活動(刑の軽減を目指す)
      • 民事上の損害賠償に関する保険会社との連携サポート
    • 【刑事弁護士費用特約の確認】

      • 弁護士への依頼には当然費用がかかりますが、近年、自動車保険の特約として『刑事弁護士費用特約』(保険会社により名称は異なります)が登場しています。これは、加害者となってしまった場合の刑事事件に関する弁護士費用(逮捕時の接見費用、起訴後の弁護士費用(着手金・報酬金)など)を、一定の限度額内で保険会社が補償してくれるものです。
      • もしご自身の保険にこの特約が付帯されていれば、弁護士費用の負担を大幅に軽減できるため、早期に弁護士へ依頼する大きな助けとなります。 事故後、ご自身の保険証券などを確認し、加入している保険会社にこの特約の有無と利用条件を必ず問い合わせてください。
      • 注意点: この特約はすべての保険契約に自動で付いているわけではありません。 また、補償には上限額があり、飲酒運転や無免許運転など故意・重過失による事故では対象外となる場合や、利用できる条件(例:起訴された場合に限るなど)が保険会社によって定められています。利用手続きも必要ですので、詳細は必ず保険会社にご確認ください。
  • 被害者遺族への対応(細心の注意を払う):

    • 謝罪: 被害者遺族への謝罪は、加害者として当然行うべきですが、タイミングと方法が非常に重要です。事故直後は遺族も混乱し、深い悲しみの中にいます。まずは弁護士を通じて謝罪の意向を伝え、遺族の意向を確認した上で、弁護士同伴または指示に従って行うのが一般的です。
    • 弔意: 通夜や葬儀への参列も、同様に遺族の感情に配慮し、弁護士を通じて意向を確認してから判断します。参列が許されない場合でも、供花や弔電を送る、香典を弁護士に託すなど、弔意を示す方法はあります。
    • 示談交渉: 損害賠償の話(示談)は、原則として加入している任意保険会社、または依頼した弁護士を通じて行います。加害者本人が直接交渉することは、感情的な対立を招きやすく、避けるべきです。示談が成立しているかどうかは、刑事裁判での量刑判断においても非常に重要な要素となります。
  • 自身の精神的ケア:

    • 死亡事故の加害者は、罪悪感や恐怖、将来への不安などから、深刻な精神的ダメージ(PTSDなど)を負うことが少なくありません。必要であれば、カウンセリングなどの専門的なケアを受けることも検討しましょう。

家族の立ち回り・サポート

突然家族が死亡事故の加害者となった場合、家族もまた大きな衝撃を受けますが、本人を支えるためにできることがあります。

  • 冷静な状況把握と情報収集: 本人が動揺して適切な対応が難しい場合、家族が代わりに警察や弁護士と連絡を取り、事故状況、手続きの進捗などを正確に把握するよう努めます。
  • 弁護士の選任・連携のサポート: 本人に代わって弁護士を探し、相談・依頼の手続きを進めます。その際、本人の自動車保険に『刑事弁護士費用特約』が付いていないか必ず確認し、利用できる場合は保険会社への連絡や手続きもサポートします。弁護士との連絡窓口となり、必要な情報(事故前の状況、本人の性格、反省の状況など)を伝え、連携を図ります。
  • 本人への精神的支え: 最も身近な存在として、本人の話を聞き、精神的に支えることが重要です。ただし、安易な慰めや責任逃れに同調するのではなく、犯したことの重大さを受け止め、誠実な対応を促す姿勢も必要です。
  • 被害者遺族への対応サポート: 弁護士の指示に基づき、謝罪文作成の手伝いや、香典・供花の準備など、側面的なサポートを行います。家族が独自に遺族と接触することは避け、必ず弁護士の指示に従ってください。
  • 日常生活のサポート: 本人が逮捕・勾留された場合、着替えや書籍などの差し入れ、必要な手続きの代行などを行います。起訴されれば裁判への同行、保釈請求が認められるよう身元引受人になるなどの役割も考えられます。
  • 職場などへの対応: 事故や逮捕により本人が対応できない場合、家族が職場などに連絡する必要が出てくるかもしれません。伝える内容や範囲については、必ず弁護士と相談の上、慎重に判断してください。
  • 家族自身のケア: 家族もまた、世間の目や将来への不安など、大きな精神的負担を抱えます。一人で抱え込まず、必要であれば相談機関を利用するなど、自身のケアも忘れないでください。

加害者が負う法的責任

死亡事故を起こした場合、主に以下の3つの責任を負うことになります。

  1. 刑事責任: 自動車運転処罰法に基づき、「過失運転致死罪」(7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)または「危険運転致死罪」(悪質な場合は1年以上の有期懲役、最高で20年)などに問われます。示談の成否、事故態様、前科前歴などが刑の重さに影響します。
  2. 民事責任: 被害者遺族に対する損害賠償責任です。治療費(事故から死亡まで)、葬儀費用、逸失利益(被害者が生きていれば得られたはずの収入)、慰謝料(被害者本人及び遺族固有のもの)などを支払う義務があります。賠償額は数千万円から億単位になることも珍しくありません。通常は自賠責保険と任意保険から支払われますが、保険金で不足する場合や、故意・重過失(飲酒運転など)で保険が適用されない場合は、加害者本人が負担することになります。
  3. 行政責任: 運転免許の取消しや長期間の免許停止などの行政処分を受けます。違反点数が非常に高く、欠格期間(免許を再取得できない期間)も長くなります。

まとめ:早期に弁護士へ相談を、そして備えの確認も

死亡事故を起こしてしまった場合、加害者とその家族は、法的責任のみならず、計り知れないほどの道義的、社会的な重圧に晒されます。その中で、被害者・ご遺族への誠意ある対応を尽くし、自らの責任と向き合い、法的手続きに適切に対処していくことが、今後の人生を再建していく上で不可欠となります。

しかし、そのプロセスは極めて複雑で、精神的な負担も甚大です。決して一人や家族だけで抱え込まず、事故後できる限り早い段階で、交通死亡事故の解決経験が豊富な弁護士に相談してください。 専門家である弁護士が、刑事弁護、被害者遺族対応、保険会社との連携など、あらゆる側面からあなたとご家族を支え、進むべき道を示します。

また、万が一の事態に備え、ご自身の自動車保険の内容を確認しておくことも重要です。対人・対物賠償や人身傷害補償はもちろんですが、今回触れた「刑事弁護士費用特約」が付帯されているかどうかも、一度確認しておくことをお勧めします。備えがあれば、万が一の際に、費用の心配を軽減し、迅速な弁護士へのアクセスにつながります。

死亡事故は、被害者のみならず加害者や加害者家族にも非常に大きなダメージを与えますから、死亡事故の取り扱いのある弁護士に任せることで、ご自身やご家族の精神的な支えにもつながってきます。

当事務所では上尾警察署や鴻巣警察署の管轄で起きた死亡事故のみならず、大宮、浦和、蕨、川口、朝霞、新座など埼玉県内の警察署の管轄で起きた交通事故の取り扱いをしております。

埼玉県内のみならず、埼玉県外の交通事故も取り扱いがあり、死亡事故事案も対応実績がございます。

万が一、死亡事故を起こしてしまったら、池長・田部法律事務所にご相談ください。

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