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2025/05/14 コラム

交通事故の「加害者」になってしまったら… その時取るべき行動と注意点

はじめに

運転中に細心の注意を払っていても、予期せぬ形で交通事故の「加害者」になってしまう可能性は誰にでもあります。事故を起こしてしまった直後は、大きな動揺や混乱、そして「どうしよう」という強い不安に襲われることでしょう。

しかし、このような時だからこそ、冷静さを保ち、加害者として誠実かつ適切な対応をとることが非常に重要になります。適切な初動対応とその後の行動は、被害者の方への責任を果たすだけでなく、ご自身の法的な責任や社会的な影響を不必要に重くしないためにも不可欠です。

このコラムでは、万が一、交通事故の加害者になってしまった場合に、事故直後からその後に取るべき行動、注意点、そして押さえておくべきポイントを解説します。

事故直後の対応【義務と鉄則】

事故発生直後は、気が動転しているかもしれませんが、以下の対応を最優先で行ってください。これらは法律上の義務でもあります。

  1. 負傷者の救護(道路交通法上の義務・最優先!):

    • まず、相手方や同乗者の方に怪我がないかを確認します。見た目に異常がなくても、必ず声をかけ、意識や応答を確認してください。
    • 少しでも怪我をしている様子があれば、直ちに119番通報し、救急車を要請します。可能な範囲で応急手当(止血など)を行います。
    • 負傷者がいるのに救護せず現場を立ち去ることは「ひき逃げ(救護義務違反)」という重大な犯罪となり、厳しく処罰されます。
  2. 二次事故の防止(道路交通法上の義務):

    • ハザードランプを点灯させ、発炎筒や三角表示板を車両の後方に設置するなどして、後続車に事故があったことを知らせます。
    • 可能であれば、交通の妨げにならない安全な場所に車両を移動させます。
  3. 警察への通報(道路交通法上の義務):

    • どんなに小さな事故(物損事故のみ)であっても、必ず110番通報してください。「相手がいいと言ったから」「急いでいるから」といった理由で届け出を怠ると、法律違反になるだけでなく、後に保険請求等に必要な「交通事故証明書」が発行されず、大きな不利益を被ります。
    • 警察には、事故の発生日時、場所、死傷者の状況、損壊した物とその程度などを正確に報告します。
  4. 現場での言動・注意点:

    • 冷静さを保つ: 感情的になったり、相手方と言い争ったりしないように努めます。
    • 情報交換: 相手方の氏名、住所、連絡先、車両ナンバー、加入している自賠責・任意保険の会社名と証明書番号などを、免許証や車検証を確認させてもらい、正確に記録します。ご自身の情報も誠実に伝えます。
    • 安易な約束・示談は絶対にしない: 現場で、「修理代は全額支払います」「私が100%悪かったです」といった具体的な賠償の約束や、責任割合に関する発言、念書の作成などは絶対にしてはいけません。 法的な根拠ない発言は後にトラブルを招く可能性があります。賠償に関する話は、後日、保険会社や弁護士を通じて行うのが原則です。
    • 誠意ある態度は重要: 法的な約束は避けるべきですが、相手方を気遣う言葉や、事故を起こしたことに対する謝罪の気持ちを伝えるなど、人として誠意ある態度を示すことは大切です。
  5. 保険会社への連絡:

    • 自身が加入している自動車任意保険会社へ、速やかに事故の発生を報告します。事故日時、場所、状況、相手方の情報などを正確に伝え、今後の対応について指示を受けます。

事故後の対応と注意点

事故直後の対応を終えた後も、加害者としてやるべきこと、注意すべきことがあります。

  • 被害者への対応(誠意をもって):

    • 謝罪: 被害の程度にもよりますが、電話などで改めて謝罪の意を伝えます。人身事故の場合は、後日、菓子折りなどを持参して直接謝罪に伺うことも考えられますが、相手の状況や感情に十分配慮し、タイミングや方法は保険会社や弁護士に相談してからにしましょう。突然の訪問はかえって相手の感情を害する可能性もあります。
    • お見舞い: 被害者が入院された場合は、お見舞いも検討しますが、これも必ず相手やご家族の意向を確認してからにします。
    • 示談交渉は専門家へ: 誠意を示すことは重要ですが、賠償金額などの具体的な示談交渉は、必ず加入している任意保険会社、または依頼した弁護士に任せましょう。 加害者本人が直接行うと、話がこじれる原因になりかねません。特に、相手方に過失が発生するケースでは必ずしもご自身のみが加害者という扱いでもありませんから、特に適切な対応が必要になってきます。
  • 保険会社との連携:

    • 保険会社には、事故の状況や被害の状況について、覚えていることを正確に伝えます。
    • 基本的に被害者との示談交渉は保険会社が進めますので、担当者と密に連絡を取り、進捗状況を確認しましょう。保険会社から協力を求められた場合は、誠実に対応します。
  • 捜査への協力(人身事故の場合):

    • 人身事故の場合、警察や検察による実況見分や取調べが行われます。これらには誠実に応じ、記憶に基づいて正直に話すことが基本です。不明な点や納得できない点があれば、その旨を伝えましょう。
    • 取調べ対応などに不安がある場合や、逮捕・勾留の可能性がある場合は、速やかに弁護士に相談してください。
  • 自身の自動車保険の内容確認:

    • 加入している任意保険の対人賠償・対物賠償の保険金額(上限額)を確認しておきましょう。
    • 弁護士費用特約: ご自身の保険に、刑事事件の弁護費用を補償する特約(名称は保険会社により異なる)が付いているか確認しましょう。万が一、刑事事件になった場合に役立つ可能性があります。
    • 車両保険: ご自身の車の修理が必要な場合は、車両保険の利用を検討します(使うと等級が下がる可能性があります)。

押さえておくべき法的責任

交通事故の加害者になると、主に以下の3つの責任を負う可能性があります。

  1. 刑事責任: 人を死傷させた場合、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷罪、危険運転致死傷罪など)に問われ、罰金刑や懲役・禁錮刑が科される可能性があります。悪質な運転(飲酒、無免許、大幅な速度超過など)は、より重い罪になります。
  2. 民事責任: 被害者に与えた損害(治療費、休業損害、慰謝料、修理費など)を金銭で賠償する責任です。通常は自賠責保険と任意保険で対応しますが、保険金の上限を超えた場合や、免責事由(飲酒運転など)に該当する場合は、自己負担が発生します。
  3. 行政責任: 運転免許に関する責任で、事故の種類や過失割合に応じて違反点数が加算され、免許停止や免許取消しといった行政処分を受けます。

弁護士に相談すべきケース

以下のような場合は、早期に弁護士に相談することを強くお勧めします。

  • 人身事故(特に相手が重傷を負った、または死亡した場合)を起こしてしまった。
  • 逮捕・勾留されてしまった。
  • 警察や検察の取調べ対応に不安がある。
  • 被害者側から過大な要求を受けている、または示談交渉が難航している。
  • 保険会社の対応や過失割合の判断に納得がいかない
  • 加入している保険に弁護士費用特約が付いている。

弁護士は、刑事手続きにおける弁護活動、被害者との適切な示談交渉のサポート、保険会社とのやり取りなど、専門的な知識と経験に基づき、加害者となってしまったあなたとご家族を法的にサポートします。

まとめ

交通事故の加害者になってしまった場合、事故直後の冷静かつ適切な初期対応と、その後の被害者への誠実な対応が何よりも重要です。そして、ご自身が負うことになる法的責任(刑事・民事・行政)を理解し、任意保険会社や弁護士といった専門家の助けを借りながら、一つ一つの問題に適切に対処していく必要があります。

事故を起こしてしまったという事実は変えられませんが、その後の対応次第で、結果は大きく変わる可能性があります。一人で抱え込まず、不安を感じたら、できるだけ早く弁護士にご相談ください。早期の相談が、精神的な負担の軽減と、より良い解決への第一歩となります。

交通事故の加害者になってお困りの場合には、池長・田部法律事務所にご相談ください。

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