2025/05/12 コラム
交通事故の後遺障害でお悩みの方へ-適正な補償を得るための道しるべ
はじめに
交通事故や労災事故に遭われ、現在も治療を続けておられる皆様、そして懸命な治療にも関わらず症状が残ってしまった皆様に、心よりお見舞い申し上げます。事故による傷害が「後遺障害」として残存した場合、それは単なる身体的な不調にとどまらず、就労、日常生活、そして精神面にも長期にわたる深刻な影響を及ぼす可能性があります。
このコラムでは、後遺障害に関する基本的な知識から、適正な補償を受けるために極めて重要な「後遺障害等級認定」の具体的な手続き、そして損害賠償請求の詳細に至るまで、より深く掘り下げて解説いたします。後遺障害に関する疑問や不安を解消し、皆様が正当な権利を実現するための一助となれば幸いです。
後遺障害とは?:症状固定の重要性
「後遺障害」とは、交通事故などが原因となった精神的または身体的な傷害が、将来においても回復が見込めない状態(症状固定)に至り、その存在が医学的に認められ、労働能力の喪失(または制限)を伴うもので、かつ、その存在が自動車損害賠償保障法(自賠法)の施行令で定められた等級に該当するものを指します。
症状固定の判断と重要性
「症状固定」とは、これ以上治療を継続しても、症状の大幅な改善が期待できないと医学的に判断される状態を指します。この症状固定の診断が、後遺障害に関する手続きを開始する上での起点となります。
- 誰が判断するか?: 症状固定の判断は、治療を担当してきた医師が行います。ただし、最終的な後遺障害等級認定の判断においては、損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)などが医学的な見地から判断します。
- 時期の重要性: 症状固定の時期は、賠償の範囲(治療費や休業損害の打ち切り時期)や、後遺障害等級認定申請の開始時期に関わるため、非常に重要です。不適切な時期に症状固定とされると、受け取れる賠償額に影響が出る可能性があります。医師との十分なコミュニケーションが大切です。
後遺障害等級認定:適正な補償への第一歩
後遺障害が残った場合、その後の損害賠償額を算定する上で、自賠責保険の基準に基づく「後遺障害等級」の認定を受けることが不可欠です。等級は症状の部位や程度に応じて第1級(最も重い)から第14級(最も軽い)まで定められており、どの等級に認定されるかで逸失利益や慰謝料の額が大きく変動します。
後遺障害等級の種類と具体例(一部)
申請方法:事前認定と被害者請求
等級認定の申請方法は主に2つです。
- 事前認定: 加害者側の任意保険会社に手続きを任せる方法です。被害者にとっては手間がかからない反面、提出される資料は保険会社が選択するため、被害者にとって必ずしも有利な資料(例えば、被害者の症状を詳細に記述した医師の意見書など)が含まれない可能性があります。
- 被害者請求: 被害者自身(または依頼した弁護士)が、後遺障害診断書をはじめとする必要書類一式を収集・作成し、加害者側の自賠責保険会社に直接提出する方法です。
- メリット:
- 症状の実態を正確に反映した、被害者にとって有利な資料(追加の検査結果、専門医の意見書、日常生活への支障を示す陳述書など)を吟味し、添付することが可能です。
- 提出前に弁護士が内容を精査し、不備や不足がないかを確認できます。
- 場合によっては、弁護士が医師と面談し、診断書作成の協力をお願いすることもあります。
- デメリット: 書類の収集・作成に手間と時間がかかりますが、弁護士に依頼することでその負担は大幅に軽減できます。
- メリット:
適切な等級認定を得るためのポイント
- 後遺障害診断書の重要性: 等級認定において最も重要な書類の一つです。医師に症状を正確に伝え、具体的な検査結果(MRI、CT、神経学的検査など)に基づいた詳細な記載を依頼することが重要です。特に、画像所見や神経学的所見など、客観的な医学的証拠の有無が判断を大きく左右します。
- 症状の一貫性: 事故直後から症状固定までの治療経過や症状の訴えに一貫性があることも重要視されます。
- 必要な検査の実施: 症状を客観的に証明するために、必要な検査(例:むちうちならMRI撮影、神経学的テストなど)を適切な時期に受けておくことが望ましいです。
認定結果に不服がある場合:異議申立て
認定された等級に納得できない場合や、非該当と判断された場合には、「異議申立て」を行うことができます。
- 手続き: 自賠責保険会社または損害保険料率算出機構に対し、不服の理由とそれを裏付ける新たな医学的証拠(追加の検査結果、専門医の意見書、弁護士の意見書など)を添えて、再審査を請求します。
- ポイント: なぜ前回の認定が妥当でないのか、どの等級が相当と考えるのかを、医学的根拠に基づいて具体的に主張する必要があります。異議申立ては専門的な知識を要するため、弁護士への相談が特に有効です。異議申立てで認められない場合は、訴訟を提起して裁判所の判断を仰ぐことになります。
後遺障害が認められた場合の損害賠償
後遺障害等級が認定されると、加害者側(主に任意保険会社)に対し、事故がなければ得られたはずの利益や、被った精神的苦痛などに対する損害賠償を請求できます。
賠償項目全体像
後遺障害に関する主な賠償項目は以下の通りです。
- 後遺障害逸失利益: 後遺障害により労働能力が失われたり、制限されたりした結果、将来得られるはずだった収入が得られなくなったことに対する補償。
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害が残存したことによる精神的苦痛に対する補償。
- 将来の介護費用: 重度の後遺障害により、将来にわたって介護が必要となる場合の費用。
- その他: 家屋や自動車の改造費、装具・器具購入費など、後遺障害のために必要となる費用。
後遺障害逸失利益の考え方
逸失利益は、以下の要素を基に計算されるのが一般的です。
- 基礎収入: 事故前の被害者の収入額。給与所得者、自営業者、主婦(主夫)、学生、失業者など、立場によって算定方法が異なります。
- 労働能力喪失率: 後遺障害等級に応じて定められた、労働能力がどの程度失われたかを示す割合(%)(例:14級は5%、12級は14%、9級は35%など。ただし、職種や具体的な症状により調整される場合あり)
- 労働能力喪失期間: 原則として症状固定日から67歳まで。ただし、症状の内容や職種、年齢などにより短縮または延長されることがあります。むちうち(14級9号、12級13号)の場合は、喪失期間が5年〜10年程度に制限されることが多いです。
- 中間利息の控除: 将来の収入を前倒しで受け取るため、その期間に応じた利息分(ライプニッツ係数やホフマン係数を用いて計算)が差し引かれます。
後遺障害慰謝料の相場観(弁護士基準を中心に)
後遺障害慰謝料の算定基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」の3つがあります。弁護士が介入した場合、最も高額となる「弁護士基準」での請求を目指します。
- 弁護士基準(裁判基準)の目安(2020年4月1日以降の事故):
- 第14級:約110万円
- 第12級:約290万円
- 第9級: 約690万円
- 第1級: 約2,800万円
(これらはあくまで目安であり、個別の事情によって増減する可能性があります)
その他の損害(具体例)
- 将来介護費: 常時介護が必要な第1級や、随時介護が必要な第2級などの場合に、職業介護人費用や近親者介護費が認められる可能性があります。必要性や相当性が厳格に判断されます。
- 家屋改造費: 車椅子での生活を余儀なくされた場合のスロープ設置、手すり取り付け、浴室・トイレ改修などの費用。
- 器具購入費: 義肢、車椅子、介護ベッドなどの購入・買い替え費用。
これらの費用も、必要性・相当性が認められれば請求可能です。
弁護士に依頼するメリット:より有利な解決のために
後遺障害に関する問題は、医学的知識と法律的知識が複雑に絡み合います。弁護士にご依頼いただくことで、以下のような多岐にわたるメリットが期待できます。
- 医学的知見に基づくサポート:
- 後遺障害診断書の記載内容について、より適切な認定を得るためのアドバイス。
- 症状を裏付けるために必要な検査(MRI、神経学的検査など)の助言や、場合によっては協力医への紹介。
- 相手方保険会社から提出される医学的意見への反論。
- 手続き・交渉の代行と精神的負担の軽減:
- 複雑な後遺障害等級認定申請(特に被害者請求)や異議申立て手続きの代行。
- 相手方保険会社との煩雑でストレスの多い交渉窓口となり、被害者の方の精神的負担を大幅に軽減。
- 弁護士基準(裁判基準)での請求: 保険会社が提示する示談額(自賠責基準や任意保険基準)よりも大幅に高額となる可能性のある、弁護士基準(裁判基準)での慰謝料・逸失利益の請求を行います。
- 異議申立てや訴訟への対応: 等級認定結果への異議申立てや、示談交渉が決裂した場合の訴訟提起とその遂行まで、専門家として全面的にサポートします。
弁護士への相談タイミング:早ければ早いほど有利に
後遺障害に関するご相談は、医師から「症状固定」の診断を受けた直後が理想的なタイミングの一つですが、治療中であっても、今後の見通しや後遺障害が残りそうな不安を感じた段階で、できるだけ早くご相談いただくことを強く推奨します。
早期相談のメリットは、
- 治療段階から、後遺障害認定を見据えた適切な検査の実施やカルテ記載に関するアドバイスを受けられる。
- 症状経過に関する客観的証拠(診断書、画像、メモなど)を計画的に収集できる。
- 保険会社とのやり取り(治療費打ち切り交渉など)についても、初期段階から適切な対応が可能になる。
など、最終的に適正な等級認定と賠償額を得るための土台作りを早期から始められる点にあります。
まとめ
交通事故による後遺障害は、被害者の方の身体的・精神的・経済的な負担が非常に大きく、その後の人生設計にも影響を与えかねません。適正な後遺障害等級認定を受け、それに見合った十分な補償を得ることは、今後の生活再建のために不可欠です。
しかし、その手続きは複雑で専門的な知識が要求されます。もし、ご自身やご家族が交通事故に遭われ、後遺障害に関するお悩みや疑問、ご不安をお持ちでしたら、決して一人で抱え込まず、交通事故問題の解決実績が豊富な弁護士にご相談ください。私たちが専門家としての知見と経験を活かし、皆様が正当な権利を実現できるよう、全力でサポートいたします。