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2025/04/27 コラム

物損事故でお困りではありませんか?弁護士が解説する事故後の対応と損害賠償請求

1.はじめに

交通事故というと、怪我の治療や後遺障害がまず思い浮かぶかもしれません。しかし、幸いにもお互いに怪我がなかったとしても、「物損事故(ぶっそんじこ)」として、大切な車や所有物に損害が発生してしまうケースは後を絶ちません。
物損事故は、人身事故に比べて「物が壊れただけ」と軽視されがちですが、修理費用が高額になったり、相手方との間で過失割合損害額について争いになったりと、決して簡単な問題ばかりではありません。
適切な対応を怠ると、本来受け取れるはずの賠償金を受け取れなかったり、不利な条件で示談してしまったりする可能性もあります。

このコラムでは、物損事故に遭われた際に知っておくべき初期対応、請求できる損害の内容、そして弁護士に相談するメリットについて解説します。

2.事故直後の対応 – まず何をすべきか

事故に遭ったら、気が動転してしまうかもしれませんが、以下の点を落ち着いて実行することが重要です。
安全の確保: まずはご自身の安全、そして後続車からの二次被害を防ぐことが最優先です。ハザードランプを点灯させ、可能であれば車を安全な場所に移動しましょう。発煙筒や三角表示板の設置も有効です。
警察への届け出(必須): どんなに小さな事故に見えても、必ず警察に届け出てください。これは法律上の義務であると同時に、後の保険請求等で必要となる「交通事故証明書」を発行してもらうためにも不可欠です。その場で「示談」を持ち掛けられても応じず、必ず警察を呼びましょう。また、相手方に大丈夫と言われたとしても必ず警察に届ける必要があります。

警察への通報手続きを行わないと、後々ひき逃げされたなどと言われてしまい、大変なトラブルになる可能性もありますので、絶対に通報(110番)をしてください。
相手方情報の確認: 相手の氏名、住所、連絡先、車のナンバー、加入している自賠責保険・任意保険の会社名と証券番号などを、免許証や車検証を見せてもらいながら正確に確認・記録します。
証拠の保全: スマートフォン等で事故状況を記録しましょう。車の損傷箇所、衝突地点、ブレーキ痕、道路標識など、事故状況が分かるように様々な角度から写真を撮っておくことが有効です。ドライブレコーダーが付いている場合は、映像を必ず保存してください。

目撃者がいれば、連絡先を聞いておきましょう。ご自身のお車にドライブレコーダーがついていなくても後続車の車両にはついているかもしれません。保存をお願いしておくことも重要であると考えられます。
自身の保険会社への連絡: ご自身が加入している自動車保険(任意保険)の会社にも、事故発生の連絡を入れてください。今後の対応について相談することができます。


・【重要】その場での安易な約束や過失の承認は避ける。
事故直後の混乱した状況で、「全部こちらが悪い」「修理代は全額払う」といった口約束や、念書へのサインは絶対にしないでください。

ご自身の過失を認める発言も不用意にしないよう注意が必要です。もっとも、仮にそのような発言をしたとしても、実際の過失には大きく影響しないと思われます。

しかし、そこで不用意な発言をしてしまうことで法的には正しいことを言ったとしても、あの時に過失を認めたではないか、と相手方が感情的になってしまい、示談が極めて難しくなってしまうこともあるところです。そのため、不用意に過失を認める発言などはしないようにしましょう。

強いて言うとしても、迷惑をかけて申し訳ないという程度かと思われます。

あとは例えばですが、保険会社からきちんと連絡をさせますなどと言うことでとどめておくのがいいかもしれません。

3.物損事故で請求できる損害

物損事故において、相手方に請求できる可能性のある主な損害項目は以下の通りです。
車両修理費用: 事故によって壊れた車両を修理するための費用です。ただし、修理費用が事故時点での車両の市場価値(時価額)を上回る場合(経済的全損)、賠償額は時価額が上限となるのが原則です。経済的全損の場合には、修理費用が全額認められるわけではないので、注意してください。
買替差額: 上記の経済的全損や、物理的に修理が不可能な場合(物理的全損)に認められることがあります。事故車両の時価額相当額から、事故車両の売却代金(スクラップ代など)を差し引いた差額が基本となり、買い替えに必要な諸費用の一部が認められる場合もあります。
代車使用料(レンタカー代): 車両の修理期間中や買い替えに必要な期間中、代車(レンタカーなど)を利用した場合の費用です。ただし、「代車利用の必要性」と「相当な期間」に限られます。必ずしも高級車を借りる必要はありません。
評価損(格落ち): 修理によって外観や機能が回復しても、事故歴があることで車両の市場価値が下落した場合の損害です。特に、新車登録からの期間が短い車や高級車などで認められやすい傾向がありますが、ここは保険会社が争ってくることが多く、立証が難しい損害の一つです。
休車損害: タクシーやトラックなどの営業用車両が事故により使用できなくなったことで生じた営業上の利益損失です。
その他の損害: 車両だけでなく、事故によって壊れた建物、塀、門、カーポート、看板、積荷などの修理費用や、ペットが負傷した場合の治療費(法律上は「物」として扱われます)なども、状況に応じて損害として認められる可能性があります。

一方で、大事なお車を傷つけられたということで精神的苦痛についての慰謝料については原則認められていません。裁判例上もかなり特殊な事例では認められているものもあるのですが、物損事故のみで慰謝料が認められるということは基本的にないと考えておいた方がいいでしょう。

4.賠償額を左右する「過失割合」

事故が発生した責任が、当事者それぞれにどれくらいあるかを示す割合を「過失割合」といいます。

例えば、ご自身の過失が2割(相手の過失が8割)とされた場合、損害額全体が100万円だったとしても、相手に請求できるのは80万円(100万円 × 80%)となり、ご自身の損害の2割分は自己負担となります(これを「過失相殺」といいます)。

過失割合は、多くの場合、相手方の保険会社から提示されますが、その割合が必ずしも適正とは限りません。

過去の裁判例を参考にしつつも、具体的な事故状況(道路状況、信号の有無、速度、衝突態様など)によって修正されるべきケースも多々あります。提示された過失割合に納得できない場合は、安易に同意せず、根拠を確認し、場合によっては争う姿勢が重要です。

5.示談交渉と注意点

損害額と過失割合が決まると、多くの場合、相手方の保険会社との間で「示談交渉」が行われます。

保険会社は、必ずしも被害者にとって最も有利な条件を提示してくるとは限りません。

提示された修理費の算定根拠、評価損の有無、代車期間の妥当性などをしっかり確認する必要があります。

そして、一度「示談書」にサインしてしまうと、後から「やはり納得できない」「新たな損害が見つかった」となっても、原則として内容を覆すことは非常に困難になります。

示談は慎重に進めましょう。

6.物損事故でも弁護士に相談すべきケース

「物損事故くらいで弁護士に相談するのは大げさでは?」と思われるかもしれません。しかし、以下のようなケースでは、弁護士への相談を検討する価値があります。


・相手方との間で過失割合について大きな争いがある。
・修理費用が高額(特に経済的全損かどうかが問題となる場合)。
・評価損を請求したい、または保険会社に否定されている。
・保険会社が提示する修理費や代車費用などの賠償額に納得できない。
・相手方が任意保険に加入しておらず(無保険)、直接交渉が必要。
・交渉が長引いており、精神的に負担が大きい。
・ご自身の自動車保険に「弁護士費用特約」が付いている(多くの場合、費用負担なく弁護士に依頼できます)。

相手方保険会社と過失割合や車両修理額や買い替え諸費用について、問題となる場合、往々にしてご自身での対応は困難を極めます。

特によくあるのが、自動車を買い替えをする場合や修理をしない場合の修理費用相当額について、消費税相当額を「損害」に入れるか否か、という点について、保険会社は消費税相当額が入らないとの主張を行ってくることが多いところです。

しかし、現在では消費税相当額も「損害」に入るのが通常の考えであり、赤い本と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編)2019年版下巻18頁以下にも同趣旨の記載が存在しています。

もっとも、保険会社は裁判例や実務書で一般的な内容であったとしても、あえて少数説に基づく主張を行ってくることもあるため、保険会社の主張を鵜呑みにすることは大変危険です。

7.まとめ – 適正な賠償を受けるために

物損事故は、怪我がないからといって決して軽視できるものではありません。

大切な財産が損なわれ、その回復には相応の費用がかかります。事故直後の冷静な対応、請求できる損害の把握、そして安易な示談に応じない姿勢が、ご自身の正当な権利を守るために不可欠です。

もし、相手方保険会社の対応や提示額に疑問を感じたり、交渉がうまくいかなかったりした場合は、お一人で悩まず、交通事故問題に詳しい弁護士にご相談ください。

弁護士は、法的な観点から適正な賠償額を算定し、相手方との交渉を代行することで、皆様の負担を軽減し、より良い解決を目指すお手伝いをいたします。

当事務所では、物損事故に関するご相談も随時受け付けております。

埼玉県内の物損事故については、上尾市周辺のみならず、さいたま市、川口市、越谷市、川越市、加須市、熊谷市や東松山市など埼玉県全域からのお問い合わせも数多くいただいております。

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